直腸脱
直腸脱とは?
直腸脱は、直腸が肛門から外に飛び出してしまう病気です。加齢や骨盤底筋の弱まり、慢性的な便秘や排便時の強いいきみなどが原因となり、特に高齢者や女性に多くみられます。進行すると排便障害や出血、生活の質の低下を引き起こすため、外科的治療が重要となります。
直腸脱の症状
- 肛門から直腸が突出する(排便時に顕著)
- 出血や粘液の分泌
- 排便困難、便秘や便失禁
- 肛門部の違和感や痛み
- 重症例では常時脱出し、手で押し戻さないと戻らない状態になる
直腸脱の原因
- 骨盤底筋群や肛門括約筋の支持力低下
- 慢性的な便秘や強い腹圧
- 出産や婦人科手術の既往
- 高齢化による筋力低下
- 先天的な直腸支持組織の脆弱性(深いダグラス窩など)
直腸脱の検査
- 問診・視診・触診による脱出の確認
- 排便造影検査(排便時の直腸の動きを確認)
- 肛門内圧検査(括約筋の機能評価)
- CTやMRIによる骨盤底の構造評価
- 他の肛門疾患(痔核など)との鑑別
多くの場合1のみで診断はつきます。必要に応じて2~5の検査を加えます。
直腸脱の治療
保存的治療(便秘改善、骨盤底筋訓練)では根治が難しく、再発を繰り返すことが多いため、外科手術が根本的治療の中心となります。外科が担当するのは手術治療です。
手術適応:生活の質を守る事が目的です
- 脱出が繰り返される場合
- 保存療法で改善しない場合
- 出血や便失禁などの合併症がある場合
- 常時脱出している重症例
手術は安心して生活を送るための最も確実な選択肢です。
手術にはいくつかの方法があります
直腸脱の手術は大きく 経腹的手術(お腹側から固定する方法) と 経肛門的手術(肛門側から修復する方法) に分かれます。患者さんの状態や脱出の程度に応じて選択されます。
- 1. 経腹的手術 … 現在では腹腔鏡手術がほとんどです
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直腸固定術(Rectopexy)
- 腹腔鏡で直腸を骨盤内に固定する方法 メッシュを使用する方法としない方法があります。
- 再発率が低く、根治性が高い
- 全身麻酔が必要で高齢者や心肺機能が弱い方には負担が大きい
切除固定術(Resection Rectopexy)
- 直腸固定に加え、便秘が強い場合にS状結腸を切除
- 便通改善効果が期待できる
- 2. 経肛門的手術(会陰側からの手術) … 適応は限られます
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Delorme法
- 脱出した直腸粘膜を切除し、筋層を縫縮
- 比較的軽度の直腸脱に適応
- 再発率はやや高いが、身体への負担が少ない
Altemeier法(経会陰的直腸切除術)
- 脱出した直腸を肛門側から切除し、再建
- 高齢者や全身状態不良の患者にも適応可能
Gant-Miwa法(日本で多い)
- 粘膜を結紮・切除して縫縮
- 比較的短時間で行える
Thiersch法
- 肛門周囲に糸をかけて狭める方法
術式 アプローチ 特徴 再発率 適応 腹腔鏡下直腸固定術 経腹 根治性高い、再発少ない 数% 全身状態良好な患者 切除固定術 経腹 便秘改善効果あり 低い 便秘合併例 Delorme法 経肛門 粘膜切除・縫縮、低侵襲 10〜30% 軽度直腸脱 Altemeier法 経肛門 脱出直腸切除、再建 10〜20% 高齢者・重度脱出 Gant-Miwa法 経肛門 粘膜結紮切除、日本で多い やや高い 軽度〜中等度 Thiersch法 経肛門 肛門狭小化、補助的 高い 高齢者・括約筋不全例 - 高齢者や括約筋不全を伴う症例に補助的に用いられる
各手術法の違い
当院の直腸脱手術について
1. 一人一人の病気や体の状態にあった手術方法を選択します
一口に直腸脱手術といってもたくさんの手術方法があります。
当院ではこれまでの経験から次のような手術方針としています。
脱出が5cm以上か未満か
これまでの成績から5cm以上の脱出がある場合には経肛門的手術(Altemeierは除く)だけでは再発が高確率で起きることが分かっています。
5cm以上脱出がある場合には腹腔鏡による直腸固定術を選択します。
5cm未満の場合には経肛門的手術を選択する事もあります。
全身麻酔が可能か、不可能か
経腹的手術には全身麻酔が必要です。体のいろいろな条件により全身麻酔がかけられない場合には下半身麻酔(腰椎麻酔)による経肛門的手術であるDelorme法(+Thiersh法)を選択します。
最近は麻酔の進歩により多くの場合で全身麻酔が可能です。当院の麻酔専門医と相談の上、安全で最適な麻酔方法と手術方法を選択します。
2. 大腸肛門病学会指導医を中心に、経験豊富な外科専門医が対応
3. 術後の生活の質を重視し、便通改善・再発予防を徹底
患者様ごとの状態に合わせた最適な治療計画をご案内いたします。
当院の経腹的手術の特色
当院でメインとなる経腹的手術にも、再発と合併症を極力少なくするための特色があります。
- 身体への負担が少ない腹腔鏡手術を積極的に導入
- 直腸を骨盤内に固定する「直腸固定術」を中心に施行
これらは多くの病院でも採用されている手術方法ですが、当院では加えて下記のような方法を取っています。
- メッシュは使わずに直接骨盤内(背中側の骨)の組織に直腸を縫い付けて固定する。
最近ではメッシュを使用して直腸を固定する方法が多く普及しています。
しかし、メッシュを使う事で起こる弊害(腸管への迷入、感染、違和感・疼痛、露出メッシュと小腸の癒着など)も危惧されます。その観点から当院ではメッシュを使用していません。 - お腹の一番深い部分(ダグラス窩)を浅くする手術を加える
人間のおなかの一番深い場所は直腸(肛門の直前の大腸)と子宮膣(女性の場合。男性の場合には膀胱)との間のダグラス窩という部分です。ちょうど“谷底”のような部分です。
これが通常より深くなっていることも直腸脱の原因と言われています。
当院では以前よりこの部分を浅くする手術を直腸固定術に加えることで再発の可能性を出来るだけ減らすようにしています。この術式を行った方では今のところ再発した方はいません。 - 直腸を全周性に剥離して引き上げる
直腸を可能な限り頭側に引き上げて固定することで、直腸の脱出の再発リスクは減る事が分かっています。
ただ、直腸に入ってくる神経を切り離す必要があり、そのことで便秘になりやすい可能性が高くなるとも言われています。
当院では以前より直腸を全周性に剥離して、十分に直腸を引き上げて固定する術式を選択しています。先のダグラス窩を浅くする手術を加えることで、再発はほとんどありません。
便秘に関しても、術後下剤でコントロールが出来ないような便秘は起きていません。
どちらのリスクの可能性を取るかに関しては事前に十分に相談して決めるようにします。
当院外科チームについて
大腸肛門病学会専門医・指導医の黒崎医師を中心に、外科専門医資格を持つ外科チームが治療に当たります。直腸脱は再発率が高い疾患ですが、当院では腹腔鏡手術を含めた多様な術式を駆使し、患者さんの生活の質を守る治療を提供しています。
実際の手術
当院で行っている腹腔鏡下直腸固定術+ダグラス窩形成手術です。手術時間は2時間半ほどです。
血液や内臓が出てきます。気分の悪くなる方は閲覧しないようにしてください。
